近年, エピソード記述(鯨岡2005)を用いた保育カンファレンスが報告されてきている。しかしながら, 通常のカンファレンスに関する研究は蓄積されてきているが, エピソード記述を用いたカンファレンスの意義やその特性を検討している研究は見あたらない。そこで, 本研究では, エピソード記述を用いた保育カンファレンスの特質と意義を検討することを目的とする。第一に, エピソード記述を用いた保育カンファレンスのプロセスを把握し, 第二に, エピソード記述を用いたカンファレンスの参加者の意義を検討した。
その結果, カンファレンスのプロセスに関する分析からは, エピソード記述を用いるからこそ登場する段階が存在し, エピソード記述そのものの質がカンファレンスの過程に影響を与えていることが明らかとなった。また, エピソード記述の読み手であるフロアの参加者は, 保育観や子ども観に対する違和感を表明することで話題提供者としてのエピソード記述の描き手の保育の枠組みに揺らぎを与える存在として機能していた。さらに, 参加者は描き手の保育の枠組みに, 違和感を抱いたとしても, 相手の枠組みを認め, その場面に身を置こうと務めることで二重の保育体験をしていた。