本研究は,批判的思考力育成をめざした社会系教科の授業開発の研究である。批判的思考力を育成し,社会認識形成を重視した授業には,社会科学科としての授業,社会工学科としての授業,社会的意思決定の批判的研究としての授業,3つの型の授業が考えられる。本研究ではまず,これら3授業の批判的検討を行い,その強みや問題点を明らかにした。そして,相互補完の関係にあると考えられるこれら3授業のうち,より直接的に市民的資質育成に関わり,また研究・授業開発が最も遅れている,社会的意思決定の批判的研究としての授業について,その構成のあり方を,開発した授業事例とともに示した。開発した授業は,高等学校公民科政治・経済の小単元「税制改革」である。小単元の目標は,複数考えられる税制のそれぞれについて,経験や科学と調和する真理性をもつ理論にもとづいて説明でき,さらに公共空間で一定の支持が得られた正当性をもつ価値を言い表せるようになることである。こうした認識形成を具体的に示し,今後の税制について知的(道具的)な合理性,さらに実践的な合理性をもつ意思決定を可能とする授業を提示した。