本研究の目的は,ヒト,モノ,コトとかかわりながら生きている私たちに生起する生活課題を問い直すことのできるジレンマ教材を開発し,それを用いた授業を実践し,教材の内容構成や指導方法について検証することである。道徳教育においてはR.コールバーグの「道徳性認知発達段階論」に依拠したモラルジレンマ資料が活用されているが,家庭科授業においてもジレンマ教材を用いることによって,二つ以上の生活的価値の問で生じる葛藤にゆさぶりをかけることによって解決に導く過程を通して,子ども一人ひとりの生活的判断力を育成する意義があると考えた。実践にあたっては,小学校第5学年の食生活分野において,身近な環境との関連を図りながら題材を構成し,調理ごみの始末をテーマに,時間の制約とごみの分別との問で生じる葛藤を描いたジレンマ教材を作成した。授業実践の結果,子どもたちはごみの始末にあたって環境や他者への配慮意識が高まるとともに,環境に関する言語が豊かになるという成果の一端を示すことができた。今後も引き続き,環境や消費といった身近な生活課題を子どもたちが様々な視点からとらえられるよう,教材の開発を進めていきたい。