本研究の目的は,児童一人ひとりの自発的な音楽表現を起点として音楽科の特性に応じた思考を発展させ,さまざまな音楽文化に能動的・主体的にかかわっていけるような,音楽科における次世代のカリキュラムの開発を行うことにある。小学校低学年を対象に「児童の音楽的思考を育む」ことを目標に授業を行い,今年度は音楽的思考の範囲の拡大に向けて学びのあり方を再考した。母語を出発点とした個の表現を引き出す活動が中心であった昨年度に対して,今年度は,個の身体的・視覚的なイメージ,言葉の表現を出発点とした鑑賞・歌唱・音楽づくりに活動の分野を拡大した。授業では,友だちと自分の表現を重ねる活動や,他者(作詞者・作曲者・他の鑑賞者・友だち)のイメージや解釈との出会いや共感を学習過程に位置づけることによって,静止画から動画へと展開するような解釈の深まり,表現の変容が認められた。考察を通して,個の感受・表現から出発し,他者と出会い共感して,再び自らの感受へと戻るプロセスの重要性,低学年児童の発達段階における想像的な思考の位置づけ,伝達=習得型ではない音楽文化の学習観に立つカリキュラム開発の重要性が確認された。