本研究では、近年アイデンティティを捉える視点として検討が進められている「個」と「関係性」と、対人関係上の困難の様相と、困難への対処に見られる特徴を検討した。山田・岡本(印刷中)で見出された4つの群に属する大学生を対象に、半構造化面接を実施した。得られた語りを整理し、(1)対人関係上の困難の内容と、(2)困難への対処の仕方の2つの観点から4群間の相違を検討した。その結果、(1)困難の内容については、アイデンティティの成熟に従い、相手からの影響ではなく、自ら行動を起す際に困難が生じること、「関係性」優位群では、他者との距離自体に困難を感じるのに対し、「個」優位群では、自分と集団が区別され、その関係において困難を感じることが示された。(2)困難への対処については、アイデンティティの成熟に従い、解決に向かう方法を取ること、「関係性」優位群では、困難な出来事が生じた場合、解決は諦めるがその場の関係は維持し、「個」優位群では、困難な出来事自体を回避する傾向が示された。