他者の視線方向へ注意が捕捉される現象に、表情が影響することが明らかになっている。しかし、その具体的なメカニズムはわかっていない。本研究では、表情による視線注意効果の違いがどの処理段階で生じているかについて、事象関連電位を用いて検討した。空間的手がかりパラダイムにおいて、手がかりに線画の顔を用いた。視線の方向を操作した快表情、不快表情の2種類の表情を画面中央に呈示し、その後顔の左右いずれかに出現するターゲットへ反応を求めた。14名の実験参加者について、視線の方向にターゲットが出現した場合とそうでない場合とで反応時間と事象関連電位を比較し、表情による注意効果の違いを調べた。反応時間では、視線手がかりによる注意効果はあったが、表情による違いはなかった。事象関連電位では、快表情で視線とは不一致の方向へターゲットが出現した場合に、他の条件と比べて前頭優位の後期陽性成分の振幅が大きかった。この成分は実験参加者の期待から逸脱した刺激に対して出現するP300様成分であると考えられることから、実験参加者にとって不快表情よりも快表情の視線によって強い期待が生じている可能性が示唆された。