理想自己と現実自己の差異は適応の指標として扱われており,差が小さいほど適応的である。しかし,適応をよくするために差異の大きさを直接調整することは,現実的ではない。よって,差異が適応に及ぼす影響を緩和する要因に着目することが有効である。本研究では,適応の指標として自己受容を用い,理想自己と現実自己の差異が自己受容に及ぼす影響を緩和する変数について検討した。その結果,差異の認知の自己評価が,差異が自己受容に及ぼす影響を緩和することが示され,差異が大きいと感じても,それを受け容れることで,自己受容の低下を防ぐことができることが明らかになった。また,差異の大きさを受け容れるプロセスについて,半構造化面接を用いて検討した。その結果,他者からの受容や理想自己以外の価値観の発見によって,理想の重要性が低下し,差異の大きさを受け容れていくプロセスが明らかになった。