本研究では, 記憶の環境的文脈依存効果の生起と環境的文脈を構成する刺激の目立ちやすさとの関係を調べた。環境的文脈の異同は二つの実験室を用い, 符号化時と検索時とで同じ実験室を用いるか否かで操作した。その際, 実験室の一つでは, 実験室で通常は嗅ぐことのない違和感のあるニオイを呈示し, 環境的文脈が目立つ条件とした(ニオイアリ条件)。もう一つの実験室では特別なニオイ刺激の呈示はなかった(ニオイナシ条件)。これらの実験室を用い, 目立ちやすい環境的文脈の同文脈条件, 通常の同文脈条件, 符号化時にニオイアリ, 検索時にニオイナシの異文脈条件, その逆の異文脈条件の4条件を設けた。実験では, 20語を偶発学習させた後, 自由再生課題を行った。その結果, 目立ちやすい環境的文脈の同文脈条件における再生率と異文脈条件における再生率との問にのみ有意な差があり, 環境的文脈依存効果の生起が確認された。この結果は, 通常では実験室で嗅ぐことのないニオイが検索時に有効な手がかりとなったことを示している。また, 符号化特定性原理より, 目立つ環境的文脈刺激は符号化時にターゲットと連合を形成しやすいことを示唆する結果である。