怒りの長期的な鎮静過程に関する先行研究は,経験直後に喚起される怒りが強いほどその怒りの長期的な鎮静は困難になることを示している。これに対して,怒りの即時的な鎮静過程に関する先行研究は,敵意特性が高いほど心臓血管の拡張は長く持続することを実証している。これら2つの知見から,怒りの長期的な鎮静に及ばす経験直後の強い怒りの抑制的影響は,敵意特性の高い者において頗著になると推測される。本研究の主な目的はこの推測を実証することであった。大学生の敵意特性(高,低)と経験直後の怒り強度(強,弱)を組み合わせた分析の結果,経験直後に喚起される怒りが強いほどその怒りの鎮静は困難になるという先行研究の知見は,敵意特性の高い者で顕著になることが示された。この結果の原因として,敵意特性高群と低群の間では強い怒りの出来事に対して使用される対処方略が異なると考えられた。