本論文の目的は3つあり,(1)日本において,文化的・言語的背景が異なる話者が,主として英語でミーティングを行う際の,彼らの力関係と相互作用における優位性の認識を比較すること,(2)それらの話者の力関係に関する認識が,どの程度共有され対立しているかを明らかにすること,(3)各話者がインタビューの中で,いかに彼らの文化的・職業的アイデンティティーの文化変容と構築を行うかを検討することである。6ケ月の間隔をおいて2回のインタビューを6名の職業人話者に対して個別に実施した。参加者は,アメリカ人シニア科学者2名,台湾系アメリカ人ジュニア科学者1名,日本人シニア科学者1名,そして日本人ジュニア科学者2名である。補充データは3回のミーティングを民族誌学的な視点から観察したものを使用した。調査結果から,アメリカ人シニア科学者,ジュニア科学者の両方とも,力関係は知識と経験に起因すると捉えていることが示唆された。そして、これらの要因を地位や言語運用能力ではなく,ミーティングにおける相互作用の優位性に帰した。一方,これとは対照的に,3名の日本人シニア科学者・ジュニア科学者は、彼らのL2(第二言語:英語)の使用という状況が,ミーティングに存分に参加する能力を制限したと報告した。さらに,日本人科学者たちの認識は,自身の世代,経験とL2能力に応じて異なった。多様な背景を持つ話者間の相互作用における力関係を検証することは,我々に,このような認識の違いに気づかせるとともに,異文化間の相互作用で生ずる可能性のある誤解に対処する一助となる。