本論文は,日本の大学における医学英語学習を充実させるためのプロジェクトに関する背景(基礎)研究をまとめ,報告しようとするものである。プロジェクトの目的は,医学専攻学生のためのコーパス,語彙リスト,及び教材を統合することである。具体的には,言語(英語)教員チームは,意志決定の段階で大学医学教員と連携を図り,医学部3年生を対象とした「医学英語集中講義(コース)」を担当した。背景(基礎)研究においては,公式・非公式に医学教授陣に聞き取りを行い,医学専攻学生との対話なども参考にした。
背景(基礎)研究の結果,論文データに基づいたコーパスを作成するために,次の10分野に分類することとした。それらは,「循管器学」「消化器学」「呼吸器学」「神経筋骨格学」「伝染病と免疫学」「腫瘍学」「発生学」「腎臓病学と内分泌学」「救急医療と麻酔学」「感覚器学」である。
公式・非公式に行った調査から,医学用語の学習の多くが,英語授業ではなく医学専門授業でなされ,それ故,適切なレベルの教材を開発するためには,医学教授陣との密接な連携が必要であることが分かった。さらに,医学部生は英語での談話(英語使用の文脈)とは離れて,多くの医学英語を身に付けるという報告もある。
医学部3年生が何を学ぶべきかについては,調査協力した医学教授陣は「解剖学」を一番重視した。また,「生理学」「生化学」「医的検査」「一般疾病」なども挙げられた。解剖学の重視という知見から,言語教員チームは解剖学教科書のコーパス分析を試みた。
さらには,医師がどの言語技能が必要かについて,英語で書く力や話す力も大切ではあるが,リーディング(能力の伸長)が最も優先されるべきであると思われる。また,聞き取り調査を踏まえると,コーパス分析に際しては,「臨床研究」「症例報告」「レビュー(総説)論文」の3つのタイプを含めるべきであろう。