ドイツ語学習者は,ドイツ人母語話者の教師のクラスルーム言語をどのようにとらえているのか。この問題提起について筆者は現在進行中のアクションリサーチプロジェクトの一環として調査した。このプロジェクトは,筆者が担当しているドイツ語授業において,ドイツ語と日本語をクラスルーム言語としてどのように使用し,また著者のクラスルーム言語の選択が学習者にどのような影響を及ぼしているのかを調査することを目的としている。このテーマについて,筆者は本誌に過去掲載された2編の寄稿論文で既に取り上げている。これら2編の論文では主にアクションリサーチプロジェクトの方法論を具体的に論じ(Harting 2011),1回生のクラスの調査から得られた最初の研究結果をまとめた(Harting 2012)。本稿ではさらに調査を進め,学習者のレベルに応じた筆者のクラスルーム言語の変更とその影響について論じる。調査に当たり,学習者を1回生,2回生,3回生の3つのグループに区分し,それぞれの授業で筆者が用いたクラスルーム言語のトランスクリプトを作成し,そのクラスルーム言語を質的に記述した。また学習者の観点を調査するため,調査対象のクラスの学習者に対して学期の始まりと終わりに記述式のアンケートを行った。アンケートには筆者の言語使用に対する学習者の要求,期待,さらには批判を全般的に記述してもらった。このアンケート調査の結果から,学習者の要求と期待に関しては,それぞれの言語レベル間で段階的な違いがあることが判明した。この結果は,学習者それぞれの言語レベルに応じたクラスルーム言語を使用することが重要であることを示すものである。