本稿は,医学部3年生(108人)を対象に提供した4日間に渡る「医学英語集中講座」について報告し,今後の「医学英語授業」の望ましい方向性について提言しようとするものである。本講座の企画・立案・実施の過程で,「特定の学術目的のための英語(English for Specific Academic Purposes)」と「職業目的のための英語(English for Vocational Purposes)」について比較・検討した。その結果,医学部生に対しては,学部レベルでの修学内容と医療業界における職務との間には強い関わりがあるので,「医学目的のための英語(English for Medical Purposes)」というような,より広い捉え方が適当であると考えた。
本講座の授業内容は,大きく「要約文ライティング(summary writing)」「医療業務場面での会話(medical conversations)」そして「医学に関するディスカッション(medical discussions)」の3つの活動に分けることとし,それぞれの活動で扱う内容を吟味し,その指導方法について協議した。さらに,これらの活動で用いる教材を作成(選択)するとともに,この講座全体を通して学習する重要語彙リストを作成した。具体的には,ウェブ上に掲載された医学論文から小規模のコーパスを作り,このコーパスを基に「基本語彙リスト」をまとめた。そして,教材を準備する過程で,さらなる基本重要語彙を追加した。この最終語彙リストは,本講座開始時に学生に配布され,講座の最後に実施される評価テストの出題対象語彙としても活用された。学生たちに対する評価は「語彙テスト」「要約文」「授業での学習(参加)態度」を基になされた。
学生による授業評価では,本講座に対して概ね肯定的な回答を得た。とりわけ,作成し配布された「基本語彙リスト」は最も肯定的な評価を得た。このような結果(成果)を基に,今後は医学部教師による専門的見地からのチェックも得て,より広範囲に渡るコーパスと語彙リストを開発し,それらに基づいた教材開発に取り組んでみたいと考えている。