心理臨床の世界は,伝え手と受け手,そしてその間や周りの人々が複雑に関わる領域である。この領域において,専門性の生成や後進への世代継承はどのように行われているのだろうか。本研究では心理臨床家である上智大学大学院教授の黒川由紀子先生に,専門性の生成と世代継承に関する面接調査を行う機会を得た。面接調査から,黒川先生の専門性の生成と継承には,①自らの未熟さに向き合い続ける姿勢,②変化を続ける内的な恩師との関係とそこから受ける薫陶,③後進の自己一致を促そうとする意識が特質として認められた。最後に,本研究の面接調査が,世代継承という特徴も備えていることから,後進である筆者の中に生じた世代継承について考察した。