本研究は,一人の心理臨床家のライフストーリーを詳細に検討することで,心理臨床家の専門家アイデンティティの生成と継承の過程について明らかにすることを目的とした。心理臨床家の専門家アイデンティティの形成には,事例検討会などを通じて,心理臨床の雰囲気を感じ取ることに加え,熟練した心理臨床家に理想化・同一化し,深く心理臨床の世界に没入していくことが必要であることが明らかになった。また,心理臨床家の専門性の継承には,その心理臨床家独自のあり方を次世代に伝えようとする姿勢よりも,先代から受け継いできた“経験"を次世代に伝える姿勢が重要となることが示唆された。また,心理臨床家としての専門性を次世代に継承する過程のなかで,同時に自身の専門性の深化も生じることが明らかになった。