本研究は,本来の教育の理念を取り戻すことで,特別支援教育と教科教育の間に作られていた溝を埋めること,また,これらの教育相互において,“誰もがわかる,誰もが学ぶことができる"という本来の教育の理念を目指すことで,学校教育総体の新たな創造を意図している。つまずきは誰もが持っている教育の状態であり,特別な支援が必要な子どもだけではない。すべての子どもがつまずく可能性を持っている。学校の授業や活動においてすべての子どもたちが支障なく学ぶことができる状態を作り出すことが必要だろう。
そのために,つまずき,困難,障害の概念の関係を改め,困難,とりわけ,学習困難を視点にすることにより,教科教育の教授-学習を構成することにおいて,つまり,授業の構想・計画,実施・実践,点検・評価,改善・再構想の過程において必要なポイントを仮説として提出する。その上で,小学校・中学校社会科学習指導要領と(続く,第2稿では,“通常"学校用社会科教科書と)“特別支援学校"用教科書と比較することによって妥当性を検討する。本研究の目的は,第一に,問題の所在,研究の目的と仮説,対象,見通しを述べ,研究仮説を示すこと,第二に,本来の教育の理念にもとづき,特別支援学校用として作成された教科書を,小学校・中学校社会科学習指導要領,通常学校用社会科教科書と比較することを通して,この特別支援学校用教科書はどのような学習困難を想定し,どのような克服策を準備しているかを解明すること,第三に,設定した研究仮説の妥当性を検討することに置いている。本第1稿は,第一と第二を目的として進める。