本論文の目的は, 『「英語が使える日本人」の育成のための行動計画』を代表とする近年の我が国の中等教育レベルにおける英語教育界に生じつつある変化(改革・改善の動き)に高等教育機関である大学がいかに関与し得るか, その可能性を考察することにある。まず, 北米や英国で実行されている「学校改善」「学校の効率化」といった流れの背景にある考えやいくつかの事例を概観し, 海外における学校単位での教育改革を支えている基本理念を日本の教員養成や教師教育が直面している現状の問題解決にいかに応用しうるかを探究する。諸外国における教育改革を成功に導いた一つの要因として, 個々の教員ではなく学校という組織に焦点が当てられた変化・変容, 改革であるという点を指摘しうる。翻って, 我が国の現職教員研修においては, 個人レベルの研修という側面に重点が置かれ, 教員相互が学び, 育つ「職員室文化」の重要性が軽視されているという問題を指摘する。この点で英語教育の実際(指導方法)に大きな影響を及ぼしていると考えられるのは, 文部科学省からのトップダウンの教育改革の方針ではなく, 職員室で教員同士が育んでいる学校文化であるということを再認識する必要がある。英語教育に限ってこの点をとらえるなら, 5年間にわたって全国規模で実施された悉皆研修も基本的には, そこでの学びが教員個人に還元されただけであり, 職員室で教員同士が英語教育に関する考えや意見を共有したり, 一定期間にわたって新たな指導の試み等を行うなどの新たな流れには至っていないと言えよう。
現在提供されている多くの英語科教員研修プログラムもある特定の学校の教員全員が参画しうるような内容であれば, その効果も期待しうる。ただ, そうした学校単位での研修を困難にしている一因として学校現場の多忙さという側面が考えられる。従って, 大学が有する人的な資源の有効な活用に加えて, web上での情報提供という可能性も今後は探求していく必要がある。