本稿は, 2009年に実施した教員免許更新講習の概要を報告し, 講習の計画を通じて浮かび上がった, 授業実践に資する教員研修や理論のあり方について考察するものである。講習のテーマは, 四技能をまたいだ言語活動で英語力を高める授業であった。これは学習指導要領の改訂により, 中学校, 高等学校とも四技能すべてを含めた統合的な授業が求められている点を重視したことによる。
講習は3つのセクションからなる。それに先立ち, 講習の柱となるNation(2008)の理論が紹介された。この理論は, 効果的な授業を行うためにはバランスをとることが重要で, そのためにはMeaning-focused Input, Meaning-focused Output, Language Focus, Fluencyの4つの領域を含める必要があると説くものである。それに続いて第一のセクションでは, 教科書の活用方法が取り上げられた。手持ちの教科書の文章を活用して, 上記の4つの領域をカバーする活動を作る方法が紹介された。第二のセクションでは, 文法指導とコミュニケーション活動の融合をテーマに, コミュニケーション活動の文脈の中で文法を指導する方法が紹介された。これはLanguage FocusをMeaning-focused InputとMeaning-focused Outputと関連付けるものである。第三のセクションでは, ALTの活用がテーマであった。第一のセクションでは教科書をリソースとしているが, この講習では生徒自身の経験をリソースとし, Meaning-focused Input, Meaning-focused Output, Fluencyに関係する活動を作る方法と, 教材作成や授業実施に対してALTがもたらす貢献について議論された。
講習を計画する上で, 特に次の二点を重要視した。一点目は, 理論と実践を結び付ける必要性である。授業は様々な要因が交錯する複雑な場であり, 教師は状況に鑑み, 何をどう教えるかといった判断をしなければならないが, 理論はその判断を支援できるものでなければならない。そのためにNation(2008)の理論を柱として講習を計画した。この理論は, 4つの領域を含めることでバランスを取るという点が, 指導要領により求められる統合的な授業と共通し, かつ第二言語習得研究などの知見とも符合する。また, 4つの領域が授業での活動の分類に直結するため, 簡便で分かりやすく, かつ幅広い文脈に適用できるという利点もあるため, この理論を教師の判断を支援する指針として採用した。二点目に, 講習のあり方も理論が実践に資するものであると身をもって分かる場でなければならないという点である。そのために, 講習では理論を紹介するだけでなく, 参加者が実際に活動に取り組むワークショップ形式で行われた。全ての活動は検定教科書を用いて作成された。また, 参加者が自分の授業を振りかえり, 講師も交えて他の参加者と対話することで, 講習で紹介したことと自分の授業を結び付ける機会も設けられた。