John Langshaw Austinは, 応用言語学の分野においてHow to Do Things with Words (Harvard University Press, 1962[坂本百大訳『言語と行為』大修館書店, 1978年])で広く知られており, この本の内容は1955にハーバード大学でのWilliam James講義に基づいている。本論文の目的は, 従来の研究と比べもう少し広い文脈でAustinの考えを吟味することである。具体的には, 没後に出版された二つの講義を中心に振り返り, 彼の言語哲学と言語学との現代における関連意義を考えてみる。
本論文の初めでは, Austinの生涯について, 彼の学問的背景に焦点を当てるとともに, 元同僚と門下生による様々な記述をもとにまとめる。次に彼の哲学に対する基本的な捉え方と, 何故「(オックスフォード)日常言語学派」と呼ばれるに至ったかを考えてみる。さらに, もう一つの著名な講義メモであるSense and Sensibilia, (Oxford University Press, 1964[丹治信春・守屋唱進訳『知覚の言語-センスとセンシビリア-』勁草書房, 1984年])を論理実証主義(Logical Positivism)の視点から吟味する。そして最後に, William James講義の価値と言語学研究に貢献したことを, Widdowsonの一貫性と結束性との関わりの中で述べてみたい。