本研究は、チベットという一地域を通した人類の音楽の変化要因を明確化するための研究の一部である。人類の音楽文化は、地域の人的・自然的環境の変化を如実に表現している。それは、世界的な情報の発達をも伴って地球規模での変化をしている。現在、チベットというユーラシア大陸のほぼ中央に位置する高原一帯には、自然環境保全・民族紛争・宗教問題・科学技術と生活習慣の対峙という人類の長い歴史を持つ課題をすべて内包している。それは、かならずしも伝統との対立項目とは言えず、ある場合は融合・伝統回帰も観察される。
本稿は、中華人民共和国の領土となって後より今日に至るチベット音楽の状況を1952年以降5つの時期に分類し、考察した結果ならびに近年の研究動向の結果である。