本研究では,高等教育機関における聴覚障害学生に対する支援に関する文献を概観し,高等教育機関へ進学した聴覚障害者に対する支援の現状と課題について考察した。現状としては,高等教育機関に対する啓発や支援ネットワークが整備されつつあり,障害者支援に関する法的な制度についても国連障害者の権利条約批准に向けての準備がされつつあることが分かった。今後の課題としては,支援ネットワークの拡充が挙げられる。つまり支援経験の豊富な中核となる高等教育機関が,聴覚障害学生の受け入れ経験が皆無または少ない大学・短大へ支援ノウハウを提供し,その大学・短大をその地域の障害学生の中核校へと育成することで,支援の地域または大学間差が縮まる。また,ろう学校・高等教育機関・企業・就労関係機関などの間を結ぶ連続的なネットワークが形成できれば,相互に必要な情報やサービスを交換することができ,高等教育機関だけでなく,卒業後の就労に向けた適応支援につながると考えられる。また,高等教育機関よっては,聴覚障害者に対してほとんど支援が行われていないことから,聴覚障害者に対する支援の必要性について,大学や企業,社会全体に認識を広める必要があると考えられる。