近年,多くの特別支援学校で,知的な遅れは比較的軽度であるものの,①対人関係を円滑に結ぶことが難しい,②社会的なルールやマナーの理解が十分でない,③感情の自己コントロールが上手でない,などの様相を呈する生徒の入学する割合が急増しており,兵庫県においても同様の傾向が見られる。
兵庫県立A特別支援学校では,暴力による他害行為(対教師暴力),器物損壊,飲酒・喫煙などを繰り返し,殺人未遂に充当する行為にも及んだ高等部2年生の男児に対し,これまでの対処療法的な生徒指導を改め,矯正教育で用いられている「統制-参加-委任」という段階的指導環境調整の手法を用いて,抜本的な指導環境の調整を図るとともに,育て直しの取り組みに着手した。本研究では,指導に関わるあらゆる価値観や行動内容を教師側が提示し,不必要な刺激を除去し,正しい価値観に基づき生徒と指導者との相互作用の中で行動を円滑に促すことを目的とした統制段階での指導に注目し,「期待と感謝」「実践的職業」「生命尊重」の三項目を基盤に据えた指導内容に取り組んできた。また,男児が居住する福祉機関や主治医の医療機関ともケースカンファレンスなどを通して共通理解を図りながら,各機関が可能な取り組みを並行して実践するという機関連携によるチームワークにも取り組んできた。
今,特別支援学校をはじめ多くの学校で,毅然としてとことん面倒を見るゼロトレランスの発想に基づいた「育て直し」の生徒指導が求められている。