薬理学等の医療分野における難解な語彙の習得は,特定学術目的の英語(ESAP)学習者にとって最大のチャレンジである。しかし具体的には何がこの分野の英語をそれほど難解にしているのであろうか。形態的複雑性が語彙学習を困難にしているのは確かであるが,それ以外にも考慮されるべき,さほど明白ではないいくつかの要因が存在する。
本研究では,これらの要因に着目し,薬理学のテキストの語彙の特徴について考察した。ここでは,先行研究ですでに作成した頻度カウントを利用し,薬理学の論文コーパスの中で最も有用だと思われる単語から構築した単語リストを利用した。
本稿においては,まず用語の新しい分類とワードリストの作成に関して簡単な説明を行い,次にリスト上の単語に着目し,学習者が専門用語を習得するに当たり,考えられる問題点について考察している。そして,"synformy"や"deceptive transparency"(Laufer, 1997)といった語彙内発生型要因と,"cryptotechnicality"(Fraser, 2006),"technicality as compression"(Ward, 2007)のような概念が,専門用語を見ていく上で有用である事を指摘している。また,学習者のL1(この場合は日本語)に起因する語彙習得における影響要因についても示唆を与える。最後に,薬理学とその関連分野における教材用ワードリストの構築や,教材開発において有用であると思われる点について言及する。