本論文の目的は,大学英語授業でのコミュニケーション志向のアプローチにおいて「論理数学的課題(logical-mathematical tasks)」を用いることの可能性を検討することである。このことを議論するにあたっては,その多くの理論的背景をPrabhu(1985)の「バンガロー・プロジェクト(Bangalore Project)の内容に依拠した。コミュニカティブ・アプローチにおける「コミュニケーション能力」観とは対照的に,バンガロー・プロジェクトは所謂「言語的能力(語彙,文法,語法など)」を伸長させるという,より狭い学力観を持っている。本稿では,勤務校の大学一年生を対象に用いた,いくつかの数学的課題の使用とその有効性について報告する。具体的には,参加した学生は4つのグループに分かれて,英語での二つの数学的課題に取り組んだ。授業の終わりに,取り組んだ課題への興味や有用性に関する五件法を用いての回答と,自由記述により感想を求めるアンケート調査を行った。調査結果から,使用した二つの課題に対して,学生は強い興味を持ったことが窺える。また,コミュニカティブ・アプローチを用いた授業においては,このような数学的な課題は主として「言語的能力」を伸長するのに役立ち,「談話能力」伸長にも限定的な貢献の可能性が示唆された。