本研究は, 介護ビジネスの経営問題を戦略的なアプローチから論じたものである。現在, 介護保険法の下で行われている介護サービス16種類のうち, 一番経営が厳しいとされる「訪問介護事業」に焦点を当て, 各企業がどのような戦略をとるのかをケースとして取り上げた。ケースの考察にあたっては, 今後の事業運営に対して実践的に役立つと同時に, 企業経営全般においても重要な役割を果たす議論にすることを目的とした。経営戦略論の観点から見れば, これまでの介護ビジネスがうまく展開できない主な原因は, 各介護サービス提供会社の戦略展開に偏りがあるからだと考えられる。訪問介護事業においては, 介護保険法で定められた報酬単価が低いため, 経営を軌道に乗せるためには業務効率をいかに上げ, 費用を削減することばかりに議論が集中しているのが現状である。しかし, 訪問介護事業は一般有形財と違って, サービス財としての性質をもつものであるため, 合理性の追求のみを重要視した経営には矛盾を感じざるを得ない。また, 対人サービスを行うにあたってはその性質から, 顧客との関係性を重視し, 信頼や共感といった「見えざる資産」を構築する必要がある。不確実な市場の中にある訪問介護事業において, 戦略の構築には企業の外部の要因を分析することもさることながら, 企業内部に競争優位の源泉となるものを蓄積することが重要である。経営資源にはヒト・モノ・カネに加えて, 「見えざる資産」といわれる情報的経営資源も含まれる。また, 競争優位とは模倣が困難のものから確立できることから, 簡単には模倣できないノウハウや企業文化, コーポレート・ブランドといった情報的営業資