近年, 高度医療機器の普及により医療過誤の量と質に変化が現われただけでなく, 従来であれば, 潜行しがちであった医療事故が法廷の場に登場することも多くなった。看護婦関連の医療過誤の増大は, 現場の看護婦に大きな不安を抱かせている。このような事実を背景に, 看護婦個人に対する保険制度が発足した。この保険制度は, 一面では医療事故の被告となり有責とされた看護婦個人の賠償責任を代位することにより, 看護婦には金銭的な不安を取り除かせるという要素もあるが, 他方では, 従来の医療事故における民事上の責任主体が主として病院や医師だけであったものに, 変化をもたらそうとしている。本稿においては, まず, 看護婦に関する医療過誤の民事責任について限定し, 不法行為の成立要件, 特に過失の認定について考察する。その際, 医療事故による刑事責任との比較を行う。さらに, 最近創設された看護職賠償責任保険が看護婦の民事責任にどのような影響を与えるか, 並びに損害の公平な分担のために看護婦の民事責任を減少させる可能性はないのかなどについて考察することとする。不法行為の一般的成立要件は(1)行為者に故意または過失があること(故意・過失)(2)他人の権利ないし利益に対する違法な侵害があること(権利侵害・違法性)(3)違法な侵害行為により損害が発生したこと(損害発生)(4)違法な侵害行為と発生した損害の間に因果関係が存在することを要件とする。患者と契約関係にない看護婦が医療過誤事件で責任を追及される法的根拠は, 原則として民法709条の不法行為の一般規定である。看護婦の過失に関する不法行為の成立要件, 使用者の責任(民法715条), 使用者からの求償(民法715条