本論の目的は, 製造業の空洞化が地域経済の空洞化を招いている現状をふまえ, 地域経済の活性化という観点から, 今後も製造業がその中心産業であることを基底に, 地域経済の活力を維持していくための新たな製造業のあり方について, 一つの方向を示すことにある。具体的には, 大量生産企業の垂直統合システムに組み込まれ, その底辺部として機能してきた地域経済が, 大量生産システムの直面する限界と, 産業のサービス化の進展に伴う大都市集中現象という2つの大きな環境変化により, かつてない苦境に立たされていることを認識し, 地域経済がこの危機を克服し, 中央からの自立と経済活動の安定化を達成するための新たな方向として模索されつつある, 中小企業のネットワークによる多品種少量生産システムヘの構造転換について, その理論と現実の到達点を明らかにすることを目的としている。はじめに, 現状認識のために, 国内製造業の空洞化とアジア経済の成長, 経済のサービス化現象と大都市集中の進行状況を, 主に統計データによって把握し, かかる状況が地域経済に与えている影響について, 空洞化による地域的技術集積の喪失と, 経済のサービス化がもたらす大都市集中の加速という問題点を提起する。次に, 地域経済がこのような状況に陥った一つの原因を, M.J.ピオリとC.F.セーブルの『第2の産業分水嶺』によりながら, 大量生産システムあるいはフォーディズムという生産パラダイムの限界として捉え, 代替パラダイムとしてのクラフト的生産システム(中小企業ネットワーク型多品種少量生産システム)について論じている。クラフト的生産システム(中小企業ネットワーク型多品種少量生産システム)