海藻中の微量金属に関する研究は陸上植物の無機成分や海藻中の有機成分にくらべて,はなはだ少ない。海藻の形態的構造は陸上植物と異なり比較的簡単で,根,茎,葉などの特別な器官の揃っているものは少ない。ただ他物に付着する組織だけをもち,養分等の吸収については体の全表面で行うのが普通である。また,生活史の一時期を除けば海藻はほとんど付着生活である。それ故,海藻の生活環境である海水の影響を当然考えなくてはならない。潮間帯付近に生育する海藻にとっては海水の成分はもちろん,その底泥や懸濁物までも海藻に与える影響は大きいものと考えなければならない。したがって海藻中の微量金属の含有量は海藻の種類,季節,生育する場所(水平,垂直的)に大いに異なると予想される。
自然状態におけるアマノリ属の微量金属の含有量を調べるため,福山地先のノリ養殖場において1972年11月から1973年4月に至るまで半月ごとに岸寄りの河口付近から沖合にかけて三定点を設け,ノリを採取した。アマノリ試料は硝酸-過塩素酸-塩酸で分解し,Fe,Zn,Mn,Cu,Pb,Cdの6種の元素について原子吸光分光分析法により測定した。また同時に葉体のクロロフィルa量についても測定した。
原子吸光分光分析法による測定法で各元素とも95%以上の回収率が得られた。三定点におけるアマノリの微量金属含有量の変動はFe:100~1000μg/g, Zn:100~200, Mn:20~70, Cu:9~30, Pb:1~4, Cd:0.1~0.5であった。一般的に必須微量元素であるFe,Zn,Mn,Cnは葉体が若いときに含有濃度が高く,成熟期に減少し,Pb,Cdは反対に葉体が若いとき少なく除々に増加する傾向を示した。クロロフィルa量の季節的変動はFe含有濃度の季節的変動によく似た傾向を示した。当初予想した葉体中の微量元素の季節的,地域的変動があまり明確にならなかった。