1970年に広島県福山市に位置する御幸牧場で低酸度二等乳の集団発生がみられ,その牧場の乳牛群の全てがこの慢性の泌乳障害である低酸度二等乳症に罹っていることが判った。御幸牧場における低酸度二等乳の集団発生は1930年代にオランダで発生した'the Utrecht abnormality of milk'と全く同じ現象であることが判った。
御幸牧場に発生した異常乳の特微は次の通りである。
1) 全ての泌乳中の乳牛がアルコール試験陽性乳を泌乳した。
2) 個乳のうちのいくつかは熱凝固性を示した。
3) 個乳のうちいくつかは鹹味を呈し,電気伝導度が高い値を示した。
4) ほとんどの個乳のイオン状Caが高い値を示した。
5) 御幸牧場の個乳のCa/Mg比はモル比で6.92であり,正常乳のそれは6.00以下であるので,御幸牧場の異常乳中のCaが高くMgが低い。
6) 夏季の牛乳はとくにMgが低くくまた蛋日含量も低くいが,冬季の牛乳はCaが高い。
以上の事から,御幸牧場の乳牛は或る代謝異常に罹っていて,その結果として体内から体外への異常なCaの流出とMg排泄の減少がみられるものと考えられる。