上原輝男は心意伝承論の国語教育への展開によって,今日の子どもたちの自信の欠如や人間関係に対する不安の強さなどの問題への対応を試みていた人物である。しかしその実践で採られている教材や方法の多くは,具体的にどのような心意伝承研究に由来するのかが不明であり,他に開かれたものとなっていない。
そこで上原が主宰していた「児童の言語生態研究会」の俳句創作指導をとり上げて考察しその教材や方法の背景にある心意伝承論的な観点を推測して,心意伝承論を国語教育へ展開する道程を探った。その結果,上原が心意伝承の具象を教材化することによって子どもたちの「意識」と「普遍的無意識」との間に通路を聞き,普遍性と独創性を兼ねそなえた創造活動を導いていたことが判った。またそうした実践の積み重ねが,子どもたちの内に他者との連帯感と自己同一感とを同時に叶え,創造力や自己成長力を育むことへつながる可能性が見出された。