本稿の目的は,初旅外国語としてのドイツ語教育におけるインターネットの役割について示すことである。まず,大学における初修外国語教育が抱える制度的問題点を以下の6つに整理した。制度的問題点 1.不十分な学習時間 2.大人数授業 3.学習言語を実際に利用する機会の欠如 4.言語的文化的な要因に基づく学習対象自体の困難さ 5.不十分で曖昧な学習の動機 6.長期的な学習展望の欠如 次にこれらの問題点の解決のための方策として以下の4つの課題を設定し,そのそれぞれについてインターネットの利用可能性を具体例を挙げて論じた。我々の課題 1.どうやって不十分な条件を補い実質的な学習時間を拡大するか 2.どうやって学習の動機付けを図るか 3.どうやって通常のコミュニケーションでのような本当らしい課題を設定するか 4.自立的な学習の機会をどうやって提供するか 課題1については,オンライン学習プログラムが有効である。主として言語能力の受容的側面に関わるスキル(聴解・読解・文法等)に限られるが,これらを利用することでドイツ語授業のトレーニング機能の一部を授業外に移すことが可能になり,実質的な学習時間の拡大がはかれる。課題2については,一つの事例として電子掲示板の公共的な発表空間としての機能が学習の動機付けに有効である。課題3に関しては,「仮想ドイツ旅行」等のプロジェクトに見られるように,インターネットのTelecommunication機能やドイツ語圏のサイトヘのアクセス可能性を利用することで,言語素材と課題の両側面においてauthenticなコミュニケーション状況を作り出すことが可能である。課題4については,1年半の教養的教育における学習期間を過ぎると継続して学習することが実質的に困難な状況を克服する方策の一つとして, WWW上に教材提示から学習相談までを網羅したドイツ語学習のための統合的なページを開設し運用することが考えられる。CALLというと,今なおコンピュータ上で動く学習プログラムを使って外国語を勉強することだけというイメージが強く,オーディオ・リンガル・メソドに由来する時代遅れの教授法を最新のIT技術で糊塗しようとするものであるかのように誤解されることも多い。しかし,CALLの主たる可能性は,むしろcontent-based learningやtask-based learning, telecommunication等のための認知的な道具としての機能にあり,それらは学習者の自立性を促す有効な手段である。インターネットが生み出した新しい学習状況が外国語教育においても考慮されなければならない。