対人恐怖的心性者は被害妄想的認知をする傾向があり,対人関係上の調整においても防衛的に振る舞う偏りが認められる。対人恐怖の亜型にふれ合い恐怖があり,正常者の中にもふれ合い恐怖的心性を示すものがいる。このふれ合い恐怖的心性者もまた被害妄想的認知傾向があるのかどうか,また,その傾向が対人恐怖的心性者と質的に異なるのかどうかを検討することが目的である。ふれ合い恐怖尺度の下位尺度である関係調整不全と対人退却の得点によって,“対人恐怖的心性群",“ふれ合い恐怖的心性群",および“良好群"の3群に参加者を分類した。その結果,他者の行動に被害的な自己関連づけを行う傾向は対人恐怖的心性群の方が良好群と比べて強いが,他方,他者の行動を警戒する猜疑心はふれ合い恐怖的心性群が良好群よりも強かった。つまり,被害妄想的傾向の内容は対人恐怖的心性者とふれ合い恐怖的心性者では質的に異なることが明らかとなった。自己意識と他者意識の傾向についても論じた。