本研究の目的は,ソフトウェア開発の原価管理における課題を明らかにすることである。第1に『原価計算基準』にも示されている管理目的の原価計算について概説する。これらの経営管理を目的とした原価計算では,一般的な工業製品の原価管理においては,標準原価を設定したうえで実際に発生した実際原価との差異分析が行われる。
第2にソフトウェア開発の工程について言及したうえで,ソフトウェア開発における標準原価の設定による原価管理手法の課題を明らかにする。そのために,前段階で言及した一般的な原価管理手法に影響を与えるソフトウェア開発の特質を検討する。『原価計算基準』では主に,製品の製造工程における製造原価の計算を取り扱っているが,ソフトウェア開発の主な工程は研究開発工程である。
ソフトウェア開発は労働集約的であり,その労働力の価格(賃金)は開発技術によって異なる。ソフトウェア開発では,プロジェクトごとに開発されるソフトウェアが異なることから,プロジェクトに投入される資源の価格や量もプロジェクトによって異なる。その結果として,従来のプロジェクト別原価計算によって,ソフトウェア開発において標準原価を設定・管理することは難しい。
ソフトウェア開発プロジェクトを原価計算対象とした従来のプロジェクト別原価計算とは異なり,開発の成果物を定量的に測定した機能量などを原価計算対象とした場合には,開発プロジェクトへの投入と成果物との間に一定の計数的対応関係が見られる。この対応関係は,ソフトウェア開発において標準原価の設定や管理の可能性を示唆するものである。