本研究では,日常的な推論に関する知見をもとに考察を進め,論理・論理的思考力に関する概念整理研究によってもたらされた成果とその限界を明らかにすることを試みた。
日常的な推論は知識依存の状態にあり,形式論理の枠組みだけで妥当な推論を行うことは困難である。そのため,文章理解,記憶,問題解決などにおける推論は常に偏向する可能性が高く,社会的な関係の影響を受けた場合などはさらに偏向する傾向が強くなる。
このような日常の論理の偏向に対応する能力の育成については,例えば井上尚美によって長く研究が進められ,情報の真偽性・妥当性・適合性に関する指導の必要性が主張されてきた。しかし,その反面,論理的思考力の概念規定は広義のものとなり,指導目標や指導内容の構造化が難しい状況を生み出している。
そこで,本稿では論理・論理的思考力を狭義のものとして概念規定し,周辺概念とともに再構造化することの必要性について論じた。