認知能力の進化に関し、現時点において一般的となっている知見、及び、種としての人間が獲得した言語の進化過程に関する最近の知見の両者を踏まえて、言語習得過程に関する経験主義に基づく考察を試みた。インプットとしての言語データから、規則を帰納する一般的認知能力、及び推論能力を前提として、どれだけ言語習得過程にアプローチ可能かについて考えてみた。
子供が形成していく文法体系は、その時点における、とりあえずの意思疎通にとって間に合うものとして形成されるものであり、常に発達途上、変容しゆくものである。語彙習得に終わりがないのと同様、文法習得にも終点はない。個々人における言語習得過程と、文法体系そのものの探求とは、異なった観点が要請されると言えよう。
つまり、理想的な文法体系、完璧な文法体系は、習得目標ではあり得ない。この認識は、とりわけ第二言語習得について大きな含みを持つ。第一言語習得、第二言語習得を問わず、言語習得において形成されていく文法体系は、常に発達途上のものであり、その意味では母語話者の言語能力も発達途上、形成途上にあり、当該言語を第二言語として学習する者が形成する文法体系とは、相対的に捉えられるべきものである。本文中に配されたいくつかのウィットは、論点を明確にする意図のものである。