インドの経済成長は著しい。しかし, そこには大きな弱点がある。それは製造業の相対的な弱さである。GDPに占める製造業の比率は17%に過ぎず, 中国の35%, タイの34%と比べ物にならない。さらに, サービス産業と製造業との賃金格差は大きく, 製造業を支える基幹的な人材は払底している。
このような国家的な課題を解決するため, 日印の共同国家プロジェクトが, インド製造業経営幹部育成支援計画(Visionary Leaders for Manufacturing (VLFM) Programme)の名のもとに2007年からはじまった。その中核的プロジェクトの一つが中級経営幹部コース(PGPEX-VLM)である。
これは, 人的資源開発省のもとにあるインドでもっとも権威あるとされる三つの高等教育機関, インド工科大学(IIT-Kanpur, およびIIT-Madras)インド経営大学院大学(IIM-Calcutta)が, 首相直属の国家製造業競争力委員会, インド工業連盟(CII)などと, 極めて強い連携をとり, 産官学のネットワークの利点を生かし, インド製造業の経営幹部育成を図るものである。そして日本のJICAが2007年より, 5年7カ月の期間支援を決定している。
そして, このプログラムの発足に際して, 今までのインドの高等教育機関ではまったく見られなかった多くのブレークスルーが起こった。本稿はそのブレークスルーの側面に焦点をあて, その内容および, なぜそのようなブレークスルーが可能になったかの一端を示そうとするものである。それは, 国家の成長に高等教育機関がどのように関与するかの一つのモデルを与える可能性を持つからである。