大学論集 42 号
2011-03 発行

Retirement Systems of Higher Educational Institutions in Japan, the United States and the United Kingdom

日米英高等教育機関における退職給付制度の比較考察
Watanabe Satoshi P.
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DaigakuRonshu_42_311.pdf
Abstract
わが国では急速な少子高齢化が進展するに伴い, 若年就労世代が老齢退職者の公的年金を賄う社会保障システムに対して制度上の限界が指摘されている。年金制度改革はわが国の国内政策における重要且つ喫緊の検討課題であるが, 企業年金・退職給付制度といった社会保障制度はまた, わが国の高等教育機関や教職員にも共通する極めて深刻な問題といえる。特に私立大学・短期大学の経営母体である学校法人の年金問題は極めて厳しい状況にあり, 現在各機関・法人に課せられている年金掛け金率は1990年代前半比で既に二倍にまで引き上げられている。また法人化以降の国立大学法人においては, 文部科学省共済組合長期給付事業を継続しており, 教職員給与から掛金が天引きされているものの, 依然として不十分な引当金の問題が解決しておらず将来的な年金不安は免れない。

これらの背景を踏まえ, 流動的な雇用形態を特徴とするわが国の大学・短期大学教員にとって, 新たに導入された確定拠出型年金がもつポータビリティのメリットは享受されうるのか, また税制上の優遇措置や年金資産運用に係る投資リスクに対する教職員の個人選好について考察すると同時に, わが国の高等教育機関にとって適切且つ持続可能な年金・退職給付制度の在り方について検討する。また本稿では, 従来の確定給付型年金構造を基盤とする日英高等教育機関における年金制度と米国教育研究機関が導入する確定拠出型年金システムの制度比較をとおして, 各国の高等教育機関における運用実態と問題点を把握し, わが国の新たな退職給付システム構築に向けた制度設計について考察する。
権利情報
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