著者らは林畜経営における放牧和牛の発育阻害要因を解明するための種々の調査研究を行なっているが,今回は,子牛の発育に大きな影響を及ぼす繁殖牛の養分摂取量を,野草地放牧のみに依存する7~10月の期間に限って調査した結果を報告する。
1. 標識牛の追跡による採食行動の調査と全糞採取,およびクロモーゲン指標物質法によって放牧牛の摂取養分量を推定した。
2. 調査牧区の植生は,7月末期のE牧区ではススキとネザサが優占種であり,9月初旬のA牧区ではススキの群落が優占し,次いでネザサが多かった。10月初旬のA牧区はネザサのみであった。以上の結果,放牧牛の食草割合も7月末期ではネザサとススキの割合が5:5,9月初旬には3:7,10月初旬にはススキのみであった。
3. ネザサとススキの成分は主として季節の進行による水分含量の減少によって変動した。ネザサの粗蛋白含量は約4%でススキの2倍である。
4. 野草の摂食量は体重100kgあたりで,7月末期には生草5.48kg,乾物換算で1.70kg,9月初旬には生草で5.30kg,乾物で2.19kg,10月初旬には生草で3.16kg,乾物で1.48kgだった。
5. 採食野草の消化率から求めた養分含量は,7月末期ではTDN16.4%,DCP1.60%,9月初旬にはTDN17.7%,DCP1.51%,10月初旬にはTDN19.0%,DCP2.13%である。
6. 放牧繁殖牛の推定養分摂取量は7月初旬には(体重335kg), DM5.71kg, TDN3.01kg, DCP0.29kg, 9月初旬には(体重403kg), DM8.79kg, TDN3.78kg, DCP0.32kg, 10月初旬には(体重330kg), DM4.85kg, TDN1.98kg, DCP0.22kgであった。これを日本飼養標準の成雌牛の維持の要求量とくらべると,7月末期の摂取量は標準比DM119%, TDN126%, DCP150%となり,9月初旬ではDM159%, TDN134%, DCP145%となり,10月初旬にはDM103%, TDN84%, DCP115%となる。