鶏の排卵は卵胞スチグマ部の破裂によって行われる。卵胞壁がスチグマ部に限局して破れるのは, この部が何らかの構造的特異性をそなえているためと考えられる。本研究は卵胞壁, とくにスチグマ壁の構造を, 一般的構造, 血管構築の様態, 結合組織線維の走行, 神経分布などの諸点から調べた。
その結果, 卵胞壁は基本的には内側から外側に, 顆粒層, 卵胞膜内層, 卵胞膜外層, 疎性結合組織層, 漿膜層から構成されていた。
これらの諸層のうち, スチグマ部においては卵胞膜外層が最も厚く, 疎性結合組織層が最も薄く構築されていた。他の層はスチグマ部と非スチグマ部の間には構造的差異は認められなかった。
卵胞壁の血管分布は密性であった。卵胞動脈は卵胞柄を通って卵胞に進入し, 卵胞膜外層を横切って卵膜内層に達し, ここに密性の毛細血管床を形成していた。この血管床からの静脈は, 貫通静脈となって卵胞膜外層を垂直方向に貫通して疎性結合組織層に進み, この層に吻合に富んだ静脈血管網を形成していた。しかし, スチグマ部の疎性結合組織層にはほとんど血管を欠いていた。また, 卵胞膜外層には貫通静脈も欠いており, 卵胞膜内層からの貫通静脈はスチグマ部を避けるように斜め方向に進み, スチグマ部を輪状に囲む静脈に吻合していた。したがって, スチグマ部は卵胞壁のうちで特徴的に血管に乏しい部分であった。
卵胞壁の主部を占める卵胞膜外層の結合組織線維の配列, 走行は, 非スチグマ部では著しく複雑で網眼状に交雑していた。これは貫通静脈の横断によって, 線維配列が乱れたためであった。しかし, スチグマ部では貫通静脈を欠いているために, 結合組織線維の走向は縦と横に比較的規則正しく配列し, とくにスチグマの長軸に走る線維が優勢であった。
スチグマには神経分布はほとんど認められなかった。
以上のような所見は, スチグマ部が卵胞壁のうちで物理的に最も弱い構造をしていることを示唆した。排卵時にスチグマ部が限局して破れるのは, このような理由によるものと考えられる。