乳牛のケトージスの発病機構は明らかでなかったが,著者の新しい説によると生体内の代謝系のうちTCAサイクル中のα-ケトグルタール酸からサクシニルCoAへの酸化的脱炭酸反応の代謝障害こそその原因であると云う。この反応は全体としてTDP, Lipoate, CoA, NAD, FADと共にMgイオンが補酵素として必要でありMgイオンの重要性はケトージス発病のうちでも大きな位置を占あている。
乳牛をMg欠乏の状態にするとケトージスが発病するかと云う点に関して,乳牛をMg欠乏にする方法として(1)Mg欠乏飼料を給与する,(2)摂取したMgを不溶性Mg塩に変化させて結果的にMg欠乏の状態にすると云う方法がある。乳牛に1Molの燐酸アンモンと重曹をルーメン内に投与するとルーメン液はアルカリ性になり下記の反応が生じて不溶性の燐酸アンモニウムマグネシウムが形成され1Molのマグネシ
MgCl2+(NH4)2HPO4+NH3+6H2O→MgNH4PO4・6H2O+2NH4Cl
ウムを不溶化する。
実験1において健康な泌乳中の乳牛に1Mol燐酸アンモンを7日間投与したところ,血清中のマグネシウムは低下し、無機燐も低下した。乳牛は食欲減退,乳量低下その他ケトージス様の症状を示したが尿アセトンは増加しなかったので実験を中止し,マグネシウムとグルコースを静脈注射することにより症状は消失し健康になった。実験II及びIIIにおいても同様に健康な乳牛に燐酸アンモンを7日間投与したのち乳牛の状態を観察したところ11日目になって尿中のアセトン100mg/dlが検出され,不消化軟便,胃腸蠕動微弱などの症状を併いケトージスの発病が確認された。燐酸アンモン投与により血清中のマグネシウム及び無機燐は低下した。これらの症状はマグネシウム塩の投与により回復した。
燐酸アンモンの投与によりルーメン内でマグネシウム塩の不溶化が生じ,血清マグネシウムが低下し次でケトージスが発病したがこの症状はマグネシウム投与により回復したのでケトージス発病機構においてMgが重要な役割を果している事を証明できる。