第1回 Monographシリーズ
元先進理工系科学研究科
山崎勝義 名誉教授
概要
山崎勝義名誉教授が執筆された物理化学分野のMonographシリーズです。物理化学の学習過程において生じた疑問点を攻略するというスタンスで書かれたこのシリーズは、物理化学に興味のある多くの人にぜひお勧めしたい本です。
山崎先生からの紹介文
Monographシリーズの各書は,物理化学の基本事項を深く正しく理解することを目的として書かれた単行書です。基本事項の中には,初学者だけでなく研究者にさえ難解な原理や誤解しやすい法則がありますが,それらがなぜ難解なのか,どうして誤解しやすいのか,という原因を教科書から読み取ることは困難です。そもそも教科書は,「書かれていること=理解すべきこと」というスタンスで著されており,読者が感じる難解さを著者も感じたことがあるとか,読者と同じ誤解に著者自身も陥ったことがあるというような,読者と著者による「疑問の共有」が成立しにくい書物です。そこで,著者自身が抱いた疑問や誤解の経験を示すと同時に,解決目標を明確にしつつ,著者がどのような"武器"を用いてどのように疑問を"攻略"したのかを記した解説書があれば,理解への険しい障壁を低くすることができるのではないかと考えたことが,Monographシリーズの執筆に至った経緯です。Monographシリーズの主な対象読者は大学院学生ですが,学部学生でも最前線の研究者でも,筆者と疑問点を共有していただける方であれば全員が対象読者です。
最近,大学生向けの教科書が数多く出版され,理解を助けてくれる良書も増えていますが,それらの書籍は決して安価とはいえないのが実情です。基本事項を正しく理解するために高額の出費が必要となる現状を少しでも改善し,自然科学(特に物理化学)の原理や法則をきちんと理解したいという意欲ある方々に対して,微力ながら支援できるものを発信したいという意識で,これまでMonographシリーズの無料配布を続けてきました。
Monographシリーズによって物理化学の基礎事項の理解が少しでも進むことがあるならば,同シリーズの使命は達成したといえます。PCの世界においてフリーウェアやオープンソースという発想があるのと同様に,学術図書の世界においても,フリーの単行書が真の理解を支える時代が到来することを信じて,これからもMonographシリーズの執筆および無料配布を継続していく所存です。
(2006.9) ※掲載当時の著者の所属:理学研究科 化学専攻 分子反応化学講座
Monographシリーズ一覧
- 電磁気学における単位系
- 成分と基底の変換の相違点 : 群論と行列力学の基礎を理解するために
- 物体の速度と物質波の速度 : E=hνの本質の理解
- 磁気モーメントとg値
- 歳差運動の物理学
- Clebsch-Gordan係数と射影演算子
- 化学反応速度理論の徹底的理解 : 微視的可逆性から遷移状態理論まで
- 遷移状態理論の基本仮定 : 遷移状態理論導出過程の理解
- 熱力学第2法則と状態関数 : 自発過程と最大仕事
- 発光分光スペクトルによる振動緩和速度定数決定法
- 発光スペクトル強度と励起分子数の関係
- Coulomb相互作用による2電荷の運動
- Pauli原理とSlater行列式
- 衝突頻度と平均自由行程
- 有効Lennard-Jonesポテンシャルの極値問題
- Jahn-Teller効果とRenner-Teller効果の統一理解
- 化学ポテンシャルと平衡定数
- 統計熱力学における古典統計と量子統計の関係
- 対称性低下法による電子状態のterm決定法
- Wigner-Witmer相関則の導出
- 球対称点群(Kh)の直積と対称積・反対称積
- 核交換操作と核スピン統計
- Born-Oppenheimer近似と断熱近似
- 量子論におけるブラ・ケット表記
- 相律における成分の数
- EinsteinのA係数とB係数
- 連続固有値関数の規格化とFourier変換
- 振動準位の既約表現決定法
- 占有数表示(Fock表示)の演習問題
- 統計理論によるprior分布の導出