海水は多くの有機物を包含し,脂質も例外ではない。本報は,燧灘の17測点における1973年夏期と1974年冬期の海水・底土・懸濁物に含まれる脂質を分析した結果を報告する。
(1) 海水および底土の脂質含量は,それぞれ痕跡~1.8mg/l,0.9~2.6mg/gの範囲にあった。燧灘の沿岸と中央部の水域を比較し,脂質含量は前者の方が多く,とくに川之江および観音寺沿岸水域で高い結果を得た。
(2) いずれの試料の脂質においても,ステロールのエステル型成分はみられず,トリグリセリドも少量しか認められないことから,エステル型化合物は海の環境下に加水分解され易いと考えられる。トリグリセリドの含有割合は,夏よりも冬において少ない結果を示した。
(3) 脂質のクラスと脂肪酸の組成を検討して,脂質の分解は底層水で比較的高く,表層水および底土がこれに次ぐものと示唆される。
(4) 懸濁物も脂質を含有する。しかし,その組成は海洋生物のそれとは非常に異なっていることを認めた。