本論文は,わが国の中山間地域の代表とも言える広島都市圈太田川上流域を対象として,今後の効率的な下水道事業のあり方について検討したものである。具体的には,実際の事業計画をもとに,集合処理事業と個別処理事業をとりあげ,費用・効果分析によって投資効率性の視点から比較を行った。その結果,対象となった38事業のうち,8事業において,個別処理事業で,負荷1kg削減単価が低くなる場合があることが明らかとなった。これは,事業が実施される地域の特性によっては,集合処理よりも個別処理の方が、事業の効率性という点で優位になることを意味している。また,現在の下水道事業の財政制度に従って,これら13事業の財源を求めた。総費用から国庫補助金及び交付税措置額を除いた額を実質的な地方負担額を求めると,集合処理が個別処理よりも低くなる場合がいくつか確認された。これにより,個別処理が効率性の面で優位であっても,現在の財政制度では集合処理を実施した方が,実質的な地方負担額が少なくなる場合があることが確認できた。つまり,現在の財政制度が,より効率的な事業を選択するインセンティブを阻害している一つの要因となっていると言える。言い換えれば,国庫補助金と交付税措置額の合計額は,ほとんどの事業で集合処理の方が大きくなっており,財政的に集合処理が優遇されていることは明らかになった。