植物油および動物油に水素添加して,結晶性トリグリセライドの量を増加させて試料とし,それらの結晶形態が電子顕微鏡によって観察され,また,多形現象の相転移がX線回折によって測定された。これらの実験によって得られた結晶形態および多形現象の相転移について結晶成長機構を探る観点から検討するのがこの研究の目的である。
実験の結果は植物性油脂,動物性油脂のそれぞれの結晶変態がβ'型,β型であり,これらの変態に対応する結晶形態が前者の場合比較的大きく,後者の場合小さい単結晶に成長することが見出された。
脂肪酸組成は植物性油脂が動物性油脂よりも脂肪酸の種類が少ない。その点から,植物性油脂変態の転移速度が早く,動物性油脂は遅いとされている。しかし実験結果は逆の傾向を示している。これは油脂を構成している液体トリグラセライドと結晶性トリグラセライドの重量比が,動物性油脂の方が植物性油脂よりも大きいために結晶性トリグラセライド分子が液体トリグラセライド分子を媒介にして容易に移動することができて単位格子を作り,また単位格子のパッキングを密にするため転移速度が早くなったと考えられる。
さらに結晶の形態において,β型よりβ'型の方が大きい単結晶に成長する機構は,液体トリグリセライド分子が多いため,結晶性トリグリセライド分子の移転が容易で,多くの結晶核ができやすくなり,単結晶は小さくなる。反対に結晶核が少ないと,核に吸着される結晶性トリグリセライド分子は多くなるので大きい単結晶が成長することになると思われる。