瀬戸内海の環境汚染調査の一環として1972年6月から1974年3月にわたり,福山市沿岸海水を対象にサルモネラと汚染指標菌の動態について調査した。その結果,以下のような成績が得られた。
1. 8地点(A~H)から採取した海水のサルモネラ陽性率は,平均12.1%(28/232)であった。
2. サルモネラ陽性率は地点および季節によって異なり,A地点23.9%(11/46),B地点21.7%(10/46)およびE地点25%(3/12)と陽性率が高く,また季節別では5~10月に高かった。
3. サルモネラ陽性率は港内から港外および沖合部に行くに従って低下した。
4. 分離された42株のサルモネラの菌型またはO群は,S.typhimurium, S.thompson, S.anatum, S.infantis, S.give, S.schleissheim, S.schwarzengrund, S.derby, S,montevideo, S.meleagridis, S,binza, S.senftenbergおよび型別不能のO群B,C1,D,E1であった。
5. これらの菌型・群は,以前に著者らが当地方の飼料工場や河川から分離した菌型と大多数は同じであったことから,陸上環境を汚染しているサルモネラが最終的には海水まで汚染していることが明らかとなった。
6. 従って海水のサルモネラ汚染は水産物のサルモネラ汚染にも影響を及ぼしている。
7. 汚染指標菌は大腸菌群,大腸菌および腸球菌の順で菌数ならびに検出率が高く,大腸菌群はほとんどが陽性であったが,他の2者では陰性例も多かった。
8. これら汚染指標菌の菌数が多い海水ほど,サルモネラ検出率が高い傾向にあった。
9. サルモネラならびに汚染指標菌の検出状況と海水温との関係を検討した結果,サルモネラは汚染指標菌の菌数が多く,しかも,水温が19℃以上の海水から検出される傾向があった。