本稿の目的は,イギリスにおける税務調査終了手続として定着している合意契約について,法規定の根拠を欠くにもかかわらず有効性と拘束性が与えられる理由を,「法の支配」の原則との関係まで検討したうえで論ずることである。
本稿では,合意契約の適法性が争点となった裁判例で展開された理論と,それに関する学説を考究することで,合意契約という手段が租税管理法等により歳入関税庁に与えられた権限の範囲内にあるものとして有効とされることを確認した。また,納税者側からは,司法審査に係る判例法の蓄積を通じて形成された正当性予測の法理により,原則として合意契約の拘束性を期待できるという関係性が認められた。
法の支配の原則は,判例法により形成されるべき行政機関に対する市民の権利という概念を含むものであることから,公正性の思考に根差す正当性予測の法理を受容すると考え得る。このため,正当性予測の原則の保護を受けて成り立つ合意契約も,法の支配の精神に抵触しないとの結論に至った。