高齢者の健康維持を目的とする介護予防事業の計画及び実行の段階において,いかなる主体間連携が行われているかを把握するため,先行研究をもとに主体間連携の分析フレームを作成した。この分析フレームを用いて,広島県大崎上島町,庄原市,廿日市市の介護予防事業を実証的に分析した結果,人口規模と合併,委託先の確保の相違により事業運営は異なっていた。
実証分析の結果は次の通りである。まず,小規模の人口,合併の影響が少ない地域である大崎上島町は,ボトムアップの手法を用いている。その長所は計画初期から市民が参加すること,短所は計画策定に時間がかかることである。次に,人口規模が大きく合併の影響の大きい庄原市は,トップダウンの手法を用いている。その長所は計画策定から実行まで短時間であること,短所として市民の意見が生かされない危険性がある。この対策として,庄原市では31の自治振興区を利用し市民の声をくみ上げる仕組みを作っている。この二つの自治体ではプロセスの各段階において,多様な主体を活用しており中心となる主体の交替により,事業の硬直化,画一化を防いでいる。最後に,人口規模が大きく予算があり委託先が確保された廿日市市においては委託料方式を採用しており,事業を会社,老人クラブ,市民団体に委託していた。委託の課題として個人情報保護や事業の画一化がある。廿日市市では情報保護の契約を交わし,会社,老人クラブ,市民団体に委託することにより事業を活性化していた。