実証研究の結果が示すように、プリンシパルの外在的インセンティブの導入は、しばしば、エージェントの内発的動機付けをクラウディング・アウト(あるいは、クラウディング・イン)させ、その結果、努力水準を不連続に低下(増加)させる。私たちは、内発的動機付けのクラウディング・アウト(あるいは、クラウディング・イン)を公式的に説明するため、そこで、まず、標準的経済理論のプリンシパル・エージェント・モデルに、外在的インセンティブ報酬から生じる選好だけではなく、内発的動機付けから生じる選好を組み込んだエージェントの効用概念を提示する。さらに、異なるタイプの動機付けから生じる満足に優先順位をつけることで総合的満足を最大にするBentham 的効用概念を活用する。この選好枠組みの下で、外在的インセンティブの導入が、異なるタイプの内発的動機付けの対象価値(あるいは、対象行為)の相対的重要性を変化させることが、内発的動機付けのクラウディング・アウト(あるいは、クラウディング・イン)を生じさせることを明らかにする。さらに、このモデル分析より、幾つかの試験的仮説を提示する。第一は、外在的インセンティブの導入が、内発的動機付けの対象価値(あるいは、対象行為)の相対的重要性を低下(増加)させるとき、内発的動機付けのクラウディング・アウト(あるいは、クラウディング・イン)を生じさせることである。第二は、エージェントに提示される外在的インセンティブが大きい程、内発的動機付けのクラウディング・アウト(あるいは、クラウディング・イン)が生じる可能性が高いことである。さらに、もう一つは、エージェントの内発的動機付けの共感度が中程度のとき、外在的インセンティブの導入が、内発的動機付けのクラウディング・アウト(あるいは、クラウディング・イン)を引き起こす可能性があることである。