干潟や河口にみられる両生生活魚トビハゼPeriophthalmus modestusは,環境省の汽水・淡水魚類レッドリスト(2007)で準絶滅危惧に指定され,全国的に生息状況の悪化の進行が危惧されている。しかしながら,広島県における本種の生息状況に関する情報は極めて乏しく,広島県のレッドデータブック(2004)にも掲載されていない状況にある。そこで,本種の広島県における生息状況を定量的に評価することを目的に,我々は過去に同種の存在が記録されていた水域を含む県内有数の干潟9地点での生息状況の査察調査を実施した。その結果,備後灘に面する県東部では生息数の際立った干潟が存在していたが,広島湾に面する県西部では生息が確認できなかった。両水域をつなぐ安芸灘に面する中部域では,ほとんどの調査地点で幼魚のみの確認にとどまり,再生産に関与する成魚の存在はみとめられなかった。本稿では,広島県内の代表的干潟におけるトビハゼの生息が危機的状況にあることを具体的に報告する。