広島県呉市大崎下島の大長に鎮座する宇津神社所蔵の棟札等51枚について調査報告を行った。51枚の棟札等の内訳は,中世3枚,近世20枚,近代8枚,安永四年(1775)の写20枚である。中世の棟札はすべて本殿に関するものであり,文保・永享・永禄に再建(文保は創建か)もしくは大規模な修理が行われたものと考えられる。近世になると,本殿は20年前後の間隔で屋根が葺き替えられていることが分かった。また,大工は同島もしくはその周辺の地域を出自とすることが多かった。一方,安永年間の棟札等及び棟札写によって,神主越智春豊が神道裁許状を受給するまでの経緯とその後の背景までが判明し,当社において画期となる時期であったと考えられる。当社棟札は,文化財的価値のみならず歴史資料的価値も高く評価できる。